第1幕
第1場:荒れ狂う海
主な登場人物:宗太郎、八兵衛、弥助、その他船員
場面:洋上の朱印船。甲板での乗組員との決死のやりとり。
序曲 航海の過酷さや荒波に立ち向かう二人の力強い人生を表す
荒木宗太郎、22歳。仲間と共に広南を目指し南シナ海を航海中、大嵐に巻き込まれるシーンから物語は始まる。若きカピタン(船長)・宗太郎は、船員たちを叱咤しなんとか荒波を乗り越える。嵐を乗り越え安堵した船員たちが、凪いだ海上を漂流する難破船を発見。宗太郎は、船上に倒れている乗組員の救助を指示する。
第2場:出会い
主な登場人物:宗太郎、弥助、玉華姫、芋、もち米、冬瓜
場面:荒木船の船室。宗太郎と玉華姫が初めて出会うシーン。
「出会い」の4重唱
漂流していた難破船に乗っていたのは、年の頃なら10歳前後か、年端も行かない子供たち4名。憔悴しおびえる子供たちに温かい粥を与え、片言の広南の言葉で優しく語りかける宗太郎。食いしん坊の少年芋が、腹ペコを我慢できず熱々の粥を慌てて口に運ぶからさあ大変!ドジな芋と優しい宗太郎のやりとりから、少しづつ子供たちの緊張がほぐれていく。
子供たちの一人、玉華姫が宗太郎の名前を覚え、感謝の気持ちを表す日本語「ARIGATO」の言葉を教えてもらう。宗太郎と子供たちとの微笑ましい交流が描かれる。
第2幕
第1場:王の胸中
主な登場人物:グエン王、大臣
場面:セットなしの舞台。前幕から10年後。スポットライトに浮かび上がる2人の人物。
「葛藤」のアリア グエン王
「グエン王、まだご決心いただけませぬか。」と詰め寄る大臣。
「ええい、うるさい。お前に言われずともわかっておる。」と、愛娘・玉華姫を日本人商人と結婚させることに父として逡巡するグエン王。王としての決断、父としての迷い、葛藤の提示。
第2場:賑わう国際都市
主な登場人物:宗太郎、通事、近衛、その他船着場で働く人々や遊ぶ子供、占い師、オランダ人等
場面:同じく前幕から10年後。ホイアン・日本人町に近い船着場近く。荷下ろしを監督する宗太郎。
通事と「商売の心得」について語り合う宗太郎。「香木、染料、砂糖、そして、銅銭、焼物、刀。両国の名産品を行き来させ、互いが豊かになることこそが我らの使命だ」と話していると、グエン王の兵が数名現れ、兵長が「日本刀の使い方をご指南頂きたい」と宗太郎に懇願する。宗太郎は「以前からの約束であったな」と応え、目の前にある売物の刀を取り出し、太刀筋のありようなどを指南する。その見事な刀さばきに周りの人たちが大喝采!宗太郎の男っ振りを褒めちぎる大歓声がわきおこる。
その時、港町の外れから「大変だあ、大変だあ、象が暴れ出した!!!」と叫ぶ声が。(暗転して第3場へ)
第3場:暴れ象
主な登場人物:宗太郎、占い師、子供他、船着場を行きまどう人々。
場面:舞台は暗転のまま。象が船着場で暴れる様子は影絵で表現。
港近くを隊列を組んで進む戦象隊。見習いの象使いのミスで一頭の象が暴れ出し、港町は大騒ぎに。船着場は荒らされ、暴れる象の目の前には占い師と子供が恐ろしさで動けずすくみあがっている。「あぶない!」助けに入る宗太郎、だが、さしもの宗太郎も象に投げ倒される。象が倒れた宗太郎に襲いかかり、絶対絶命のピンチに!
宗太郎が踏みつけられようとするその瞬間、笛の音と美しい調べが船着場に響き渡る。それに導かれるように落ち着きを取り戻す象。玉華姫がこの窮地を救ったのである。
第4場:再会
主な登場人物:玉華姫、宗太郎、通事、占い師、子供、その他前場の人々
場面:象に襲われる宗太郎の影絵。舞台袖、スポットライトで登場する玉華姫から始まる。
一難去って、倒れた占い師を抱き起す玉華姫。その様子に心を奪われる宗太郎。
象を落ち着かせ助けてくれた玉華姫に、宗太郎はお礼の言葉を述べる。
二人は「ARIGATO」という言葉をきっかけに、10年前の出会いに気づく。玉華姫を小船で家まで送り届けることになる宗太郎。道中、再会の奇跡と互いの運命を確かめ合うことに、、、美しい荘厳な夜空に包まれる中、二人は互いの愛に誘われていく。
第5場:王の胸中 その2
主な登場人物:王、大臣、玉華姫
場面:王の間。
見合いの時が迫る中、未だ日本への嫁入りを決断しない王に迫る大臣。グエン王は王としての答えは持ちつつも、愛娘を遠い異国に嫁がせたくない。一人の父として決めかねていた。意を決して王はこう語った。「もし姫本人が行くと言うのであれば、行かせようではないか。姫をこれへ」見合いに反対していた姫の返答を頼りに、王は期待を込めて訊ねる。「姫、良く知らぬ船乗りについて、遠き日本に行く覚悟はあるか?」
玉華姫は答える。「はい、父上。私は、日本に参ります。宗太郎様を愛しているのです」姫の返答に驚く王と大臣。その決意とお后の慈しみの言葉に、グエン王はついに二人の結婚を許し、日本に嫁がせることを決断する。
第6場:婚礼の儀
- 主な登場人物:
- グエン王、お后、玉華姫、もち米、芋、宗太郎、
- その他、宮廷の者、市民、船員等
場面:婚礼の儀を祝う王宮・宴の間。
「祝いの大合唱」グエン王、その他全員
宴の間である大和殿にて、王の宣言により婚礼の儀が始まる。
王宮あげてのお祝いの大合唱。お后は母として愛しい娘に「凛として、どこに行っても自分の心に従って正しく美しく人生を謳歌しなさい」と語りかけ、嫁入り道具として記念の「鏡」を贈る。日本にお供するお付きの者たちに声をかけ、娘の世話を託す。
盛大なお祝いの大合唱が続く中、舞台は王宮から長崎へ向かう荒木船の甲板へ。広南国から長崎へ向かう洋上、二人の行く末と長崎への期待が膨らむシーンで幕。
第3幕
第1場:幸せな長崎での暮らし
主な登場人物:宗太郎、アニオー姫、家須(赤ちゃん)、芋、冬瓜、もち米、長崎の人々
場面:日本・長崎の港。町は気の良い町人たちであふれかえっている。
「一弦琴」のアリア アニオー姫
「日本の子守歌」の大合唱 町の人(ラスト数小節は、アニオー姫も参加)
町を行くアニオー姫と宗太郎に、町の人々が親しく声をかける。アニオー姫と宗太郎、家須、町の人々の幸せな交流や暮らしぶりを歌い合う。
町の人にねだられ、一弦琴のアリアを歌うアニオー姫。郷愁の響きが町の人の心を包む。そして、生まれたばかりの家須のために、町の人たちに日本の子守歌を教えてもらう。町の人々に愛される宗太郎とアニオー姫の姿が、人々に幸せな時間を運ぶ。
第2場:鎖国の通達
主な登場人物:宗太郎、長崎奉行、アニオー姫、家須
場面:鎖国直前の同じく日本・長崎の港。
「鎖国通達」のアリア 長崎奉行
「絶望」のアリア 宗太郎
鎖国前の幸せな時が過ぎ、ある日、宗太郎は奉行より鎖国の通達を受ける。奉行と宗太郎のやりとり。宗太郎の気持ちをわかりつつも、非情な通達をせざるをえない奉行。そして、どうにもならないと知りつつも、「海への想い」「アニオー姫への愛」「王様、お后様との約束」に心が押しつぶされ茫然と立ち尽くす宗太郎。
知らせを聞いたアニオー姫が駆けつける。気持ちの拠りどころを互いに求めるように、抱きしめ支え合う二人。成長した家須も駆寄り幕。
第4幕
第1場:宗太郎との別れ
主な登場人物:アニオー姫、宗太郎
場面:アニオー姫の夢の中。
「アイン・オーイ」のアリア アニオー姫
仲睦まじく歩いてくる宗太郎とアニオー姫。いつものように町や景色の様々な変化を見つけては、嬉しそうに宗太郎に話しかけるアニオー姫。そんなアニオー姫のもとを、突然、宗太郎がゆっくりと離れていく。
夢の中で、宗太郎の逝ったことを思い出し、鎖国通達後の宗太郎の苦しみや、これまでの宗太郎への感謝の気持ちで張り裂けそうな胸の内を宗太郎にさらけ出す。「アイン・オーイ」と語り、歌うアニオー姫。心のすべてを宗太郎に届けると夢の中に宗太郎が現れ、悲嘆のアニオー姫を受け止め優しく励ます。そこには今や、宗太郎の深い愛に包まれ、未来を見つめようと決意するアニオー姫の姿があった。
第2場:母 アニオー姫の想い出
主な登場人物:アニオー姫、家須
場面:宗太郎の墓前。墓参りをしているアニオー姫のもとに家須が登場。
「アニオー姫の想い出」のデュエット アニオー姫と家須
母・アニオー姫、父・宗太郎とのこと、母の故郷ベトナム・ホイアンのこと、長崎での町の人々との楽しい思い出が、これまでの年月を振り返るようにかけめぐり、やがて、“その時”がきたことを暗示するように、アニオー姫が倒れこむ。
第3場:フィナーレ/輝かしい未来へ
主な登場人物:アニオー姫、家須、長崎奉行、芋、冬瓜、もち米、宗太郎、グエン王、お后、町の人々
場面:荒木家のアニオー姫の寝室。
「ありがとう」のデュエット アニオー姫と家須
「奇跡」の大合唱 オールキャスト
床に臥すアニオー姫と見守る家須。アニオー姫のもとに駆けつける町の人々。
アニオー姫が最期の時を迎え、宗太郎にもらった“思い出のかんざし”とお后である母からもらった“鏡”を家須に託す。そして家須に、宗太郎との出会いと奇跡の再会、「ARIGATO」が導いてくれた二人の運命を語り、息をひきとる。
家須は、母に父に、そして町の人々に「二人が愛し合った物語をお祭りにしてこの地に残しましょう。互いの故郷に再び行き来できるその日まで。」と語る。家須の言葉に奉行と町の人々の想いが重なり大合唱に!最後は、宗太郎やアニオー姫、王やお后などの登場人物が現れ、リアルと虚構の狭間で、カーテンコールのような華やかさのもと、大団円を迎える。
参考文献
- 神宮徴古館編 1958『角屋関係文書集』
- 岩生成一 1966『南洋日本町の研究』岩波書店
- 和田正彦 1991『近現代の東南アジア』日本放送出版協会
- 日本ベトナム研究者会議編 1993『海のシルクロードとベトナム』穂高書店
- 福川裕一編 1997『ベトナム・ホイアン町並み保存調査報告書』昭和女子大学国際文化研究所
- 菊池誠一編 1998『ベトナム・ホイアン考古学調査報告書』昭和女子大学国際文化研究所
- 石井米雄・桜井由躬雄編 1999『東南アジア史①大陸部』山川出版社
- 櫻井清彦・菊池誠一編 2002『近世日越交流史』柏書房
- 菊池誠一 2003『ベトナム日本町の考古学』高志書院
- 友田博通編 2003『ベトナム町並み観光ガイド』岩波書店
- 菊池誠一・阿部百里子編 2010『海の道と考古学―インドシナ半島から日本へ』高志書院
- 菊池誠一編 2014『朱印船貿易絵図の研究』思文閣出版
- 九州国立博物館編 2013『The Great Story of Vietnam―大ベトナム展公式カタログ ベトナム物語』
- CHARLES B. MAYBON(Nguyễn Thừa Hỷ 訳)2016 『Những Người Châu Âu ở Nước An Nam』Nhà Xuất Bản Thế Giới
- Lê Nguyễn 2017 『Xã Hội Việt Nam qua Bút Ký của Người Nước Ngoài』Nhà Xuất Bản Hồng Đức
- 菊池誠一・菊池百里子編 2020『ベトナム・ホイアン考古学調査報告書』昭和女子大学国際文化研究
- 岩崎京子著 長野ヒデ子絵 『わが名は荒木宗太郎』偕成社
- 白石一郎著 『異国の旗』中央公論社
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